髪の毛を整えて、男の服を買って少しは男性としての外見を
取り戻し久しぶりに清々しい朝を迎えられるはずだった。
でも、洗面所の鏡に映る僕の姿からは昨日の出来事が夢ではなく
現実のことと知らされる最悪の光景であった。
昨日は玲子さんに勧められワインを飲まされたので帰宅後の
記憶がはっきり思い出せない。
可愛いナイトウェアにキャップまで被っている。
不覚にも玲子さんに着替えさせられたのであろう。
1日で伸びてしまった僕の髪の毛、全てがここからスタートした。
僕は既に
女装の域を超え始めているようだ。
女装をしてのOL、女の子での生活空間、あの日から僕は後戻り
できず何かとんでもない深みの罠にはまってるような気がする。
ただ憂鬱な表情で変わり果てた自分自身を眺めている僕を、
僕自身あどけない少女だと錯覚している。
『薫ちゃん、おはよう、さっきから何に見とれてるの。
早く用意しなきゃ仕事に遅れるわよ。』
『え、あ、おはようございます玲子さん。』
いつから玲子さんがいたのか気がつかなかった。
何も言い返す言葉はなかった。事実僕は僕自身に見とれていた。
『薫ちゃん、髪の毛セットしてあげるから早く顔洗いなさい。』
『はい。わかりました。』
僕は顔を洗い着替えることにした。
下着は既に玲子さんが用意していた。
ショーツ、ブラ、ストッキング、キャミソールをつけたところで
ドレッサーの椅子に座らされ玲子さんに念入りにメイクをされ
髪の毛は昨日のように左右に可愛く束ねられた。
そして、昨日僕が選んだ可愛い花柄の
ワンピースを着せられ
そろえて買ったパンプスにバッグを持たされ会社へと向った。
朝の通勤、通学電車内で僕はこれまでにないくらいの視線を
感じていた。
意識すればするほどその視線は増え、
女装している僕を
あざ笑っているように感じる。
耐え難い状況はオフィスへと続いた。
髪の毛は仕方なくてもこの可愛らしい
ワンピースは早く制服と
取り替えなければ美里さん、順子さんに見られる前に。
そんな僕の思いはオフィスに入った途端に崩れた。
月1度のミーティングのため2人とも既にオフィスに到着していた。
僕の姿を見た2人はしばらく固まったまま何も喋らなかった。
いや言葉を失ったかのようだった。
『どうしたの薫ちゃん、カットして服買いにいったんじゃ。
髪の毛つけて、
ワンピース買ったの。』
『いや、美里さんこれには訳があって、その、』
『いいわ、薫ちゃんとりあえず制服に着替えて、ミーティング始めるから
そのことは後で聞かせて。』
『はい。』
後で美里さんと順子さんに説明しようとしたけど僕はうまく伝えることが
できず玲子さんが変わりに喋っている。
僕が男の服を買うことも忘れて
ワンピースを選んだり、女の子の洋服を
欲しそうに眺めていたりと、言わなくてもいいことをうれしそうに喋っている。
でも、事実に反していないので僕は何も言えずうつむいたままだった。
この数ヶ月、僕はこの状況から逃げ出すことはできたはずだ。
いや、今この瞬間も、まだ元に戻ることができるはずである。
しかし、この先の出来事で僕はますます
女装、女の子の生活から
脱出できなくなってしまう。
この時は、そんな予測なんて美里さん、順子さん、玲子さんですら
できなかった。
タグ : ワンピース 女装
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