僕は立っているのがやっとである状態であった。
数時間前の僕の心の片隅には少なからず男に戻るという
微かな希望があったはずである。
完璧に女の子の姿にされてしまった今放心状態に陥ることは
おかしくはないであろう。
その時お店に入ってきた電話は玲子さんからであった。
おそらく予想以上に待たされていることにしびれを切らした
のであろう。
当然のことだろう、カットだけしていると思っている玲子さんは
どのくらいの時間を要するかある程度計算して行動していたはずだ。
カラーを入れたり、
エクステをしたりの時間は玲子さんの計算には
入っていない。
〔薫ちゃん、まだお店にいたの随分時間かかったじゃない。〕
〔玲子さん、実は髪の毛染めてから・・・〕
〔カラー入れてもらったんだ。それで時間かかってたんだね。
じゃあ待ってるから早く来てね。〕
〔いや、玲子さんそれから・・・〕
〔あ、ウィッグはちゃんと付けときなさいよ。じゃあね。〕
玲子さんは僕の話はろくに聞かずに電話を切ってしまった。
僕はバックを渡されお店を後にするしか道はなくなった。
オーナーもアシスタントの女性も満足気な表情である。
ここまでかわいく仕上げて僕が喜んでいると思っているのだろう。
僕が女の子であればこんなにかわいく仕上げてもらって
うれしいであろう。
この姿を人に見てもらって満足感に浸りたいであろう。
しかし、僕は
女装している男なのだ。
このようにされてはうれしいはずがない。
僕はお店を出て玲子さんの待つレストランに向うしかなかった。
そこまでは歩いて十分くらいだろう。我慢するしかない。
すれ違う人の目線が気になる。
そんな中、僕はこの事態を玲子さんにどのように伝えるか必死で
考えていた。答えを見つけるのには時間が足りなかった。
ガラス張りのお店の中に玲子さんの姿を確認した。
意を決してお店に入り玲子さんの待つ席にたどり着いた。
玲子さんは僕を見てすぐに目を逸らした。
僕とは気付かなかったようだ。
仕方なく僕は玲子さんの前に座った。
玲子さんは見ず知らずの女性が何も言わずに合席することを
失礼に感じたような不機嫌な顔で睨みつけてきたが僕だと
気付くのにそれ程の時間は必要なかった。
『薫ちゃん、何それ、どうなってんの。』
玲子さんは思いのほかびっくりした様子で睨みつけてきた
恐い形相は一瞬にして変わった。
『あの、玲子さん実は、・・・。』
『薫ちゃん、どうしてそんなにかわいくなってんの。』
『それが、・・・。』
少し落ち着いてから僕は玲子さんが美容室を出てからのことを
説明した。
そして一時我慢すればよいことだと自分自身に言い聞かせていた。
タグ : 女装 エクステ
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